波・メール通信句会
第79回 令和七年十一月
富山ゆたか
主宰特選三句
蔵王嶺の白がまばゆし青鷹 富山ゆたか
山形・宮城の県境に位置する蔵王。一度樹氷を見に行ったことが忘れられない。そういえば不忘山(わすれずのやま)の異名もある。晩秋から初冬にかけて南へ渡る鷹。大きな景を詠われた。
面差しは考古学者ぞ枯蟷螂 山下 遊児
このように詠われると成程と納得してしまう。枯蟷螂ゆえに考古学者がピタリとくる。
みなとみらい線こがらしを遠く聞く 田中 順子
みなとみらい線は横浜駅から元町中華街駅を走る地下鉄路線。みなとみらいの措辞にこれから行く未知数の人生をも想起させる奥の深さがある。
主宰入選五句
聴いてやることが癒しや冬ともし 鎌田紀三男
戯れる葉音も楽し夜長かな 山田 節子
山河あり海あり野あり渡り鳥 千乃 里子
冬紅葉転ばぬやうに手を繋ぎ 稲吉 豊
ピアノ弾く指透きとおる冬はじめ 風野 でら
作者一句(互選・得点順)
千年の礎石に今朝の落葉降る 大平 政弘
小春日や未来の走る幼稚園 霧野萬地郎
参道におかめ行き交ふ酉の市 坂本 弘道
かくれんぼひとり残され秋の暮 岡坂ゆう子
晴着着て抱っこねだる子七五三 山崎 美紀
還来のやしろ銀杏の散りやまず 飯野 深草
留守電にありし日の母野紺菊 亀倉美知子
剣先を揃へたるごと葱畑 廣田 洋々
川の字に手つなぐ縁七五三 宮川 敏江
大切が過ぎて居座る柚子のジャム 帆川 透
秋惜しむ検印小さき太宰の書 伊藤真理子
花野には幾千万の悔悟あり 菅谷 睦
十三夜黒のマントを広げ海 関 美晴
よく見ればソーラーパネルに熊の影 粋 狂 子
夢希望実るは渋い柿ばかり 中出 隆義
冬磧はんざきめける斑石 山田せつ子
禅の寺もみぢ纏ひし芭蕉句碑 君島 京子
会員選評より
山河あり海あり野あり渡り鳥 千乃 里子
渡り鳥の眼下に見える景色が次々と展開します。「あり」の繰り返しのリズムが口遊むと心地よくひびきます。(飯野深草)
ピアノ弾く指透きとおる冬はじめ 風野 でら
冬の訪れ。中七に白く長い指の動きが繊細な音を奏でているように感じられました。(宮川敏江)
千年の礎石に今朝の落葉降る 大平 政弘
千年という悠久の時と、今朝という現在を現したところに時の移ろいを感じ、奥深い句となった。(伊藤真理子)
小春日や未来の走る幼稚園 霧野萬地郎
子供の成長を「未来」と表現された所が憎い!。明るく好感の持てる句である。(山下遊児)
参道におかめ行き交ふ酉の市 坂本 弘道
酉の市で買った、おかめのお面を被った人たちが、参道を行き交っている様。景が生き生きと描写されている。(千乃里子)
かくれんぼひとり残され秋の暮 岡坂ゆう子
平易な表現で、秋の夕方の寂しさを上手く表現しています。(大平政弘)
晴着着て抱っこねだる子七五三 山崎 美紀
三歳子ですか。まだまだ赤ちゃんですね。(坂本弘道)
還来のやしろ銀杏の散りやまず 飯野 深草
山口青邨の〈銀杏散るまつただ中に法科あり〉の銀杏散るは、学問を志す学生の士気を鼓舞う姿と解すると、死して故郷に還った藤原旅子を祭る還来神社(大津市)の銀杏は、死者が故郷に還ることを祈願して散っていると解したい。(富山ゆたか)


